医薬品開発では、期待した効果を発揮すること、副作用を生じないこと、の二点がとても重要です。自らと相補的な核酸を標的とする核酸医薬には、疾患の原因となる分子 (主にRNA) が同定できればそれを標的とする塩基配列をすぐさま設計できるという大きな利点があることから、次世代の医薬品としてとても注目されています。しかしこれらの効果や副作用の可能性を推し測る為には、様々な臓器でゲノムから発現している全てのRNAについて、塩基配列や存在量に関する情報が必要になります。そして医薬品をヒトへ投与する臨床試験の前には実験動物を用いた試験 (前臨床試験) が実施されますが、その試験を正しく実施・評価する為にはやはり実験動物における全てのRNAに関する情報が必要になります。

ゲノムやRNA情報の観点から核酸医薬の開発を支援する為、私達はヒトと実験動物のRNAデータを網羅するデータベース D3G (Database for Drug Development with Genome and RNA sequences) の開発をはじめました。特に、霊長類を対象にした研究プロジェクトを、平成29年度より国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の支援1を受けて進めています (前臨床試験ではマウス他のげっ歯類も多く用いられていますが、残念ながらこちらについては支援されていません)。ヒトの網羅的RNAプロファイルについては、理化学研究所を核として結成された国際共同研究FANTOM5プロジェクトで高解像度に測定された結果2が広く公開されていますのでこちらを活用しています。また、非ヒト霊長類(カニクイザル・マーモセット)については公開データでは十分でないことから、当該研究の中での測定が進められています。平成31年度には非ヒト霊長類に関する網羅的なデータも公開される予定です。

D3Gは様々な用途に使うことができるよう、基盤となるデータを提供することに主眼をおいており、標準的な形式で記述されたデータファイルを配布しています。ダウンロードや利用は自由に実施していただいて構いませんし、D3Gのデータを取り込んだウェブ・ツールも公開されていますので、ある塩基配列が標的とし得るRNAの予測や、発現パターンのインタラクティブな閲覧などもこれらウェブ・ツールを用いれば可能です。


参考

1: 日本医療研究開発機構(AMED)ゲノム創薬基盤推進研究事業「核酸医薬創薬に資する霊長類RNAデータベースの構築」. ヒト・カニクイザル・マーモセットの霊長類三種に発現するRNA全長構造の種間比較可能な核酸創薬研究基盤「Japan-PrimateOmicsDB(仮称)」の構築を目指す研究課題です。

2: 理化学研究所プレスリリース「ゲノム上の遺伝子制御部位の活性を測定し正常細胞の状態を定義」


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